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大阪地方裁判所 昭和40年(行ウ)73号 判決 1966年10月28日

大阪市東区横堀二丁目三番地

原告

吉田鉄次郎

大阪市東区大手前之町

被告

東税務署長

水野清

右指定代理人

伴喬之輔

中小路宣征

本野昌樹

右当事者間の昭和四〇年(行ウ)第七三号更正決定取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対して昭和三八年一月二三日になした昭和三四年度分所得税更正決定のうち、総所得金額が金一、九五一、四二五円を超える部分および過少申告加算税のうち総所得金額が右金額を超える部分に対応する部分を取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

第一原告の申立

被告が原告に対し昭和三八年一月二三日になした昭和三四年度分所得税更正決定および過少申告加算税の賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二被告の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

(当事者双方の主張)

第一原告主張の請求原因

一  原告は昭和三五年三月一五日に原告の昭和三四年度の所得税について、総所得金額を金一、六八九、六四〇円として確定申告したところ、被告は右所得税について昭和三五年一二月二三日総所得金額を金一、九五一、四二五円とする更正決定と過少申告加算税金四五〇円の賦課決定をし、更に同三八年一月二三日に総所得金額を金八、四八一、四二五円とする再更正決定と過少申告加算税金一四五、一五〇円の賦課決定をした。そこで原告は被告に対し同三八年二月一一日に同年一月二三日の右再更正決定および過少申告加算税賦課決定に対し異議の申立をしたところ、右異議申立は決定がないまま三ケ月を経過したので審査請求とみなされ、大阪国税局長は同四〇年三月一八日に右申立を棄却する裁決をし、原告はその翌日右裁決書謄本の送達を受けた。

二  ところで、右審査裁決の理由とするところは、原告が別紙物件目録記載の保安林(以下本件保安林という)を訴外植田兵蔵に金一四、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡した譲渡所得を原告の所得に加算したというのであるが、そのような事実はないから右再更正決定および過少申告加算税賦課決定は違法である。よつて原告は被告に対しその取消を求める。

第二被告の答弁

原告主張の請求原因のうち第一項、第二項のうち審査決定の理由は認める(ただし被告が異議申立を受理したのは昭和三八年二月八日である)が、その余は争う。なお原告は被告に対し昭和三四年度の所得税について同三五年九月二〇日に総所得金額を金一、七五三、一四〇円とする修正申告書を、同年一一月二八日に総所得金額を金一、八二〇、六七五円とする再修正申告書を提出している。

第三被告の主張

一  原告の昭和三四年度の総所得金額は次のとおりである

総所得金額 金八、四八一、四二五円

(一) 配当所得 金九四九、四二五円

(二) 事業所得 金八五〇、〇〇〇円

(三) 給与所得 金一五二、〇〇〇円

(四) 譲渡所得 金六、五三〇、〇〇〇円

(なお所得控除は生命保険控除金二二、五〇〇円、扶養控除金一四八、七五〇円、基礎控除金九〇、〇〇〇円合計金二六一、二五〇円であり、配当控除は金一八九、八八五円、源泉徴収税額は金一六一、八七三円である)

二  原告の譲渡所得について

原告は、その所有の本件保安林を昭和三四年一月一六日に訴外植田兵蔵に対し代金一四、〇〇〇、〇〇〇円をもつて売渡し、神戸地方法務局同日受付第五九三号によりその旨の所有権移転登記をなしたのであるが、本件保安林の護渡に伴う譲渡所得は次のとおり算定される。

(一) 譲渡価額 金一四、〇〇〇、〇〇〇円

(二) 取得価額 金三〇〇、〇〇〇円(訴外木村稔より昭和三二年十二月二日取得)

(三) 譲渡経費 金四九〇、〇〇〇円(法定手数料率による)

(四) 特別控除 金一五〇、〇〇〇円

(五) 譲渡所得 金六、五三〇、〇〇〇円((一)から(二)(三)(四)を控除した二分の一の額)

三  原告は本件保安林を昭和三三年一二月二日頃訴外青木善一に対し代金三、〇〇〇、〇〇〇円(その後値引により金二、九五〇、〇〇〇円)とし、同日手附金一、〇〇〇、〇〇〇円を受領し、残金を同三四年一月末日に支払を受ける約束のもとに売渡したものであると主張するが事実に反する。

原告は本件保安林の売買についての斡旋を訴外青木善一に依頼し、右訴外青木、同三輪東(旧姓堀内)、同小西正之、同佐藤靖蔵、同亡米田健治等の仲介によつて、原告と右訴外植田との間に本件保安林を代金一四、〇〇〇、〇〇〇円とする売買契約が成立した。なお右売買契約の契約書に訴外青木善一は原告の代理人と表示されていたのである。

四  また原告は本件保安林の売買契約が成立したのは、昭和三三年一二月二〇日頃であるからそれによる譲渡所得を昭和三四年度の所得税として課税すべきものではないと主張する。しかしながら譲渡所得の収入金額の確定時期は譲渡所得の基因となる資産の所得権その他の財産の移転の時と通常解せられているところ、本件では原告から訴外青木に対し登記に必要な権利証等の書類を渡したのは昭和三四年一月一〇日前後であり、原告から訴外植田兵蔵に本件保安林の所有権移転登記のなされたのはそれから約一週間後の同年同月一六日であることから本件保安林の所有権が原告から訴外植田兵蔵(もしくは訴外青木善一)に移転した時期は右権利証等の授受ないし所有権移転登記のときと解せられ、(仮りに原告主張のように昭和三三年一二月二〇日頃右訴外青木との間に売買契約が締結されたとしても売買契約書を作成し、手附金の授受のあつたことにつき確たる証拠がないのであるから殊に右のように解すべきである)。従つて本件保安林の売買代金債権確定の時期も同時になるので、右売買による譲渡所得は、原告の昭和三四年度分の所得税として課税されるのが当然である。

五  更に原告は本件保安林を訴外木村稔から譲り受けた当初から本件保安林を第三者に転売し、利益を折半する特約があり、原告が本件保安林の売買により昭和三四年中に取得した金九七五、〇〇〇円については昭和三九年一二月三〇日に納税を完了していると主張するが、そのような事実はない。

第四被告の主張に対する原告の答弁

一  被告の主張第一項のうち(一)配当所得、(二)事業所得、(三)給与所得、所得控除、配当控除、源泉徴収税額は認めるが(四)譲渡所得は争う。

二  被告の主張第二項のうち本件保安林は原告の所有であつたこと。本件保安林について昭和三四年一月一六日原告から訴外植田兵蔵に所有権移転登記がなされていること、本件保安林の取得価額が金三〇〇、〇〇〇円であることは認めるがその余は争う。

原告は本件保安林を昭和三三年一二月二〇日頃。訴外青木善一に対し代金三、〇〇〇、〇〇〇円とし、同日手附金一、〇〇〇、〇〇〇円を受領し、残金二、〇〇〇、〇〇〇円を同三四年一月末日に支払を受ける約束のもとに売渡し、同三三年一二月中に原告は右訴外青木に対し本件保安林の所有権移転登記に必要な書類一切を交付した。そして原告は昭和三四年二月末頃までの間に右訴外青木から二、三回に分けて金一、九五〇、〇〇〇円を受領し、残金五〇、〇〇〇円については右訴外青木の求めにより値引したのである。

(一) 右のとおり原告は訴外植田兵蔵に対して本件保安林を金一四、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡したことはなく、前記原告から右訴外植田に対する所有権移転登記は訴外青木善一が勝手に中間省略の方法によつてなしたものである。

(二) また前記のとおり、原告は訴外青木善一に本件保安林を譲渡したのは昭和三三年一二月二〇日頃であるから右譲渡にもとづく所得は昭和三三年度の所得であつて、同三四年度の所得として課税されるべきものではない。

(三) 仮りに原告が本件保安林の売買代金のうち昭和三四年度中に取得した額に課税されることがあるとしても、原告の右年度の所得税につき加算されるべきものがない。即ち原告は本件保安林を訴外木村稔から譲り受けた当初から右訴外木村との間に本件保安林を第三者に転売し、その代金から買受代金三〇〇、〇〇〇円と転売等の費用を差引いた残金(利益)を原告と右訴外木村とで折半する特約がなされていたので、前記売買契約が成立した際(昭和三三年一二月二〇日頃)受領した手附金一、〇〇〇、〇〇〇円については買受代金三〇〇、〇〇〇円、登記管理費用金二〇〇、〇〇〇円合計金五〇〇、〇〇〇円を差引いた残金五〇〇、〇〇〇円を右訴外木村と折半し、また同三四年二月末までの間に受領した金一、九五〇、〇〇〇円についても右訴外木村と折半した。ところで原告は昭和三四年中に受領した金一、九五〇、〇〇〇円の半額金九七五、〇〇〇円(原告の取得分)については、昭和三九年一二月三〇日にこれに対する所得税の納税を完了している。

(証拠関係)

一  原告

甲第一ないし八号証、同第九号証の一、二、同第一〇ないし一八号証、同第一九号証の一、二、同二〇ないし第二四号証を提出し、証人木村稔、同青木善一、同植田兵蔵の各証言ならびに原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の一、二、三、同第二号証の四は原本の存在と成立およびその写であることは認める。同第二号証の一は原本の存在とその写であることおよび官署作成部分の成立は認めるがその余は不知、同第二号証の三は原本の存在とその写であることを認め、受任者の氏名、登記権利者の住所氏名、登記原因の日付及び作成日付の成立はいずれも否認し、その余の成立は認める。同第二号証の二、五は原本の存在、成立は不知。

二  被告

乙第一号証の一ないし三、同第二号証の一ないし五を提出し、証人植田兵蔵、同松村道弘の各証言を援用し、甲第一、二号証、同第四ないし七号証、同第一一ないし一七号証、同第二一ないし二四号証の成立は認める、同第九号証の一、二は原本の存在と成立およびその写であることは認める。同第一八号証、同第一九号証の一、同第二〇号証は原告作成名義部分の成立は認めるがその余は不知、同第一九号証の二は郵便官署作成部分の成立は認めてその余は不知、同第三号証の成立は不知、同第一〇号証は原本の存在とその成立は不知。

理由

一  原告主張の請求原因第一項は当事者間に争がない。(但し異議申立日附については原告は昭和三八年二月一一日であると主張し、被告は同年同月八日であると主張するがいずれも異議申立期間内である。)

二  原告は右再更正決定の総所得の認定は過大であると主張するところ、原告の配当所得が金九四九、四二五円、事業所得が金八五〇、〇〇〇円、給与所得が金一五二、〇〇〇円であることは当事者間に争いがないので、結局譲渡所得の存否が本件の争点となる。

三  よつて原告の譲渡所得の存否について判断する。

(一)  被告は原告がその所有の本件保安林を昭和三四年一月一六日に訴外植田兵蔵に対し金一四、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡した旨主張するので検討するに、本件保安林は原告の所有であつたこと、本件保安林について昭和三四年一月一六日に原告から訴外植田兵蔵に所有権移転登記のなされていることは当事者間に争がないが、本件全証拠によるも被告の右主張事実を認めるに足る証拠はなく、却つて原本の存在とその写であること、官署作成部分について争のない乙第二号証の一、原本の存在とその写であることについて争がなく、受任者の氏名、登記権利者の住所氏名、登記原因の日付、作成日附を除いて当事者間に争のない同第二号証の三に証人木村稔、同植田兵蔵、同松村道弘の各証言、証人青木善一の証言の一部、ならびに原告本人尋問の結果によると原告は昭和三三年一二月二〇日頃訴外青木善一に対し本件保安林を代金三、〇〇〇、〇〇〇円とし、同日手附金一、〇〇〇、〇〇〇円を受領し、残金二、〇〇〇、〇〇〇円を同三四年二月末頃までに支払を受ける約束のもとに売渡したこと、同三三年一二月末頃訴外青木善一は原告に対し本件保安林の登記に必要な書類の引渡を求めたので、原告は右訴外青木から残金二、〇〇〇、〇〇〇円の担保として同訴外人所有の不動産について代物弁済の予約をし、右不動産の所有権移転登記をするに必要な書類を受領するのと引換えに、本件保安林について何人にでも所有権移転登記ができるよう譲渡証の名宛人、委任状の受任者、登記権利者等を空白した登記用書類一切を右訴外青木に交付したこと、訴外青木善一外数名が原告の代理人と称して本件保安林を訴外植田兵蔵に代金一四、〇〇〇、〇〇〇円で売渡し、同三四年一月一六日に同日付売買を原因として原告から訴外植田兵蔵に所有権を移転する旨の登記をしたこと、その後原告は訴外青木善一から同年二月末頃までに金一、九五〇、〇〇〇円の支払を受け、残金五〇、〇〇〇円についてはその支払を免除したことが認められ、証人青木善一の証言中右認定に反する部分は信用し難く、他に右認定を覆かえすに足る証拠がない。

(二)  ところで右認定事実によると原告が本件保安林を代金三、〇〇〇、〇〇〇円で売買したことに伴つて原告に譲渡所得が生じることになるところ、被告は右所得は原告の昭和三四年度の所得であると主張するのでこの点について検討するに、税法においては原則として、収得すべき権利の確定したときを基準としてその年度の益金とされ、履行すべき義務の確定したときを基準としてその年度の損金とされるものと解される(権利確定主義)ところ、右認定事実によると昭和三三年一二月二〇日頃原告が訴外青木善一に本件保安林を譲渡する契約を締結したことによつて本件保安林の右売買代金債権が確定したものというべきであるから、原告の本件保安林売買による譲渡所得は昭和三三年度の所得というべく、被告の主張する同三四年度の所得とみることはできない。

してみるとその余の点について、判断するまでもなく被告の主張する原告の昭和三四年度の譲渡所得は全く存在しないことが明らかである。

四  そうすると原告の昭和三四年度の総所得金額は配当所得金九四九、四二五円、事業所得金八五〇、〇〇〇円、給与所得金一五二、〇〇〇円合計金一、九五一、四二五円となるから被告が原告に対して昭和三八年一月二三日になした更正決定のうち総所得金額が右金一、九五一、四二五円を超える部分および同時になされた過少申告加算税のうち総所得金額が右金額を超える部分に対応する部分は違法なものとして取消を免れない。

五  よつて原告の本訴請求のうち右の限度でこれを認容し、その余の部分を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九二条但書を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 長谷善仁 裁判官 福井厚士)

(物件目録)

神戸市兵庫区山田町上谷上字大岳五番地の一

保安林 二五五、五五〇、四〇平方メートル

(二五町七反六畝二四歩)

以上

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